092.不動産売却で健康保険料が上がるケースとは?扶養や控除についても徹底解説
こんにちは!
イエステーション愛媛総合センター| 今治店の川又です
不動産売却で出た利益は譲渡所得として扱われ、所得税が上がることは知られていますが、加入している健康保険の種類によっては、保険料も値上がりする可能性があります。
この記事では、不動産の譲渡所得が健康保険料にどのように影響するかや、会社員の方が利用できる控除制度の活用などについて詳しく解説していきます。
健康保険料はどうやって決まる?
不動産の売却益が健康保険料に影響するかどうかは、自分が加入している健康保険の種類によって異なります。健康保険は大きく分けて3種類あります。種類ごとに保険料の算定方法を確認していきましょう。
①健康保険
企業に勤める会社員が加入する保険です。健康保険料は、会社の給与額を元に算出されるため、不動産の売却による利益=譲渡所得があっても、保険料には影響しません。
②共済保険
公務員や社会福祉法人などの団体職員が加入する保険です。サラリーマンが加入する健康保険と同様、毎月の給与をベースに保険料が計算されますので、譲渡所得が発生しても保険料は変わりません。
③国民健康保険
自営業者や無職の人などが加入する保険です。こちらは所得額に応じて保険料が決められますから、不動産の譲渡所得も大きく関わってきます。
つまり、①②の健康保険加入者は、不動産の売却益が出ても、健康保険の自己負担額が上がる心配はありません。ただし、扶養家族に譲渡所得が出た場合には注意が必要です(詳しくは後述します)。
不動産の譲渡所得とは?
不動産の譲渡所得とは、土地や建物など不動産の売却によって得た利益のことです。次の計算式から算出します。
譲渡所得=不動産の売却で得た収入-(取得費+譲渡費用)
「取得費」とは対象の不動産をかつて購入した時にかかった費用のことで、「譲渡費用」とは今回の売却にかかった費用(仲介手数料や印紙税、登記手続きの費用など)のことです。
【計算例】
例えば、かつて3,000万円で購入した不動産を今回5,000万円で売却し、そのために200万円の費用がかかった場合の譲渡所得は、次のような計算になります。
5,000万円-(3,000万円+200万円)=1,800万円
譲渡所得は1,800万円となることが分かります。
取得費・譲渡費用として計上できる経費の詳細は、国税庁のタックスアンサーのページで確認しましょう。
なお、相続した不動産を売却する場合は、取得費が分からないこともあります。その際は、売却価格の5%を概算取得費として計上することができます。
国民健康保険の保険料はどのように決まる?
それでは、国民健康保険の保険料がどのように計算されるのかをみていきましょう。
国民健康保険料は基準総所得金額が基本
国民健康保険の保険料は、基礎分、支援金分、介護分の3つを足して計算します。所得割、均等割などの税率や税額は自治体によって異なりますが、ここでは参考までに、滋賀県大津市の保険料算定基準を紹介します。
区分 基礎分 支援金分 介護分
所得割 基準総所得額×7.8% 基準総所得額×2.8% 基準総所得額×2.1%
均等割 被保険者1人につき28,500円 被保険者1人につき9,600円 被保険者1人につき9,300円
平等割 1世帯につき20,400円 1世帯につき6,900円 1世帯につき4,200円
最高限度額 81万円 19万円 16万円
上記のうち均等割と平均割は、所得に関係なく一定の金額を負担しますが、所得割は「基準総所得金額」に保険料率を乗じます。つまり、不動産売却などで所得が増えると、その分保険料が上がる仕組みです。
基準総所得金額とは
基準総所得金額とは、前年の総所得金額から基礎控除(33万円)を引いた金額です。総所得金額は、給与所得、公的年金等所得、事業所得、譲渡所得などを合計した金額を指します。
例えば、個人事業主が本業以外に副業として飲食店などでアルバイトをしているケースでは、事業所得に加えてアルバイトで得た給与所得も保険料の算定額に含まれます。
譲渡所得は分離課税では?
確定申告をしたことがある人なら、「不動産の譲渡所得は分離課税だから、事業所得には含まれないのでは?」と考えるかもしれません。
確かに、不動産の売却で発生する譲渡所得は他の所得とは合算せず、分離課税方式で個別に税額を計算します。これは現在の税制度は所得が高いほど税率が高くなる累進課税のため、譲渡所得を一般の所得と合算してしまうと、一時的に莫大な税金が課せられることになるからです。
ところがこの税金の仕組みは、健康保険料とは一切連動していません。
確定申告書Bの所得金額の欄を見ると、総所得金額は、事業所得など全ての所得を合算して求めるようになっています。つまり、不動産売却で譲渡所得が発生していれば、それだけ総所得額が増えることになります。
先述の通り、国民健康保険領の算定根拠となる基準総所得金額は、総所得金額から基礎控除の33万円を差し引いたものですから、結果的に譲渡所得がダイレクトに保険料に反映されるのです。
譲渡所得の保険料への影響をシミュレーションしよう
それでは、不動産で譲渡所得があった場合、どれくらい保険料がアップするのか、具体的な数字で検証してみましょう。
【例】
200万円の所得があった個人事業主で、500万円の課税譲渡所得があった場合で計算してみます。
- 200万円の事業所得のみの場合
所得割:200万円×(7.8%+2.8%+2.1%)=254,000円
均等割:28,500円+9,600円+9,300円=47,400円
平均割:20,400円+8,900円+4,200円=33,500円
合計:334,900円
1カ月当たりの納付額:約28,000円
- 事業所得+500万円の譲渡所得があった場合
所得割:700万円×(7.8%+2.8%+2.1%)=889,000円
均等割:28,500円+9,600円+9,300円=47,400円
平均割:20,400円+8,900円+4,200円=33,500円
合計:969,900円
1カ月当たりの納付額:約80,000円
比較して分かる通り、500万円の譲渡所得がある場合とない場合とでは、翌年の納付額にこれだけ大きな差が生まれます。
譲渡所得があった会社員が注意すべきポイント
会社員の健康保険の保険料は、不動産の譲渡所得とは連動しないため何も影響はありません。ただし、扶養家族である配偶者が不動産を売却して譲渡所得があった場合は、次の点に注意が必要です。
①扶養家族から外れることがある
扶養家族の具体的な取り扱いは各健康保険組合によって異なりますが、一般的に130万円以上の年収か、被保険者の2分の1以上の収入があると、一時的に扶養家族から外れることになります。
ただしこの措置は1年限りのため、大きな収入がなければ、翌年再び扶養家族に入ることができます。
②国民健康保険への加入が必要になる
扶養家族から外れる時は、各自治体で国民健康保険への加入が必要です。保険料は、譲渡所得を基準に算定されるため、負担額はかなり高額になります。先に示した大津市の例でいえば、譲渡所得が800万円を超えると、それぞれ最高限度額が適用されるので、1年間に116万円、1カ月当たり約97,000円の保険料を支払うことになります。
③3000万円特別控除を活用しよう
ただ実際には、譲渡所得が発生しても保険料が上がるケースはあまりありません。なぜなら、「居住用不動産の譲渡にかかる3000万円の特別控除」があるからです。
マイホームを売却した場合であれば、譲渡所得から3,000万円を控除することができます。一般的な住宅であれば、多くの場合、譲渡所得は実質ゼロ円になります。
この特別控除が適用されれば、扶養家族を外れることはなくなります。また個人事業主も同様に、前年よりも健康保険料が大きく上がる事態を避けることができます。
ただし、この制度はマイホーム限定で、別荘などの不動産には適用されないなど、ほかにも適用要件がありますので注意しましょう。
まとめ
不動産売却が初めての場合、税金には意識が向いても、健康保険への影響を考える人は多くありません。
譲渡所得は分離課税のため、所得税は大きく軽減されますが、特に国民健康保険料に加入している人は、譲渡所得がそのまま反映されて保険料が上がる可能性があります。
翌年の保険料が大幅にアップして家計を圧迫する事態にならないよう、保険料への影響を考慮して必要な資金を確保しておくなど、十分に注意が必要です。
マイホームの売却で得た譲渡所得であれば「居住用不動産の譲渡にかかる3000万円の特別控除」が活用でき、保険料への影響を抑えることができます。
不動産売却の際は、保険料への影響やどのような控除を受けられるのかなど、事前にしっかり確認しておきましょう。
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